|
巨額不正に揺らぐ企業年金
日本における65歳以上の高齢人口割合は、2006年に21%という世界最高の水準に達した。
老後の生活資金は高齢社会の最大の課題であるが、公的年金を補完するものとして退職金を年金化した企業年金に期待が寄せられている。
企業年金は、信託銀行や生命保険会社等に積み立てるもので、企業の倒産の場合でも積立金からの安定的な給付ができるものとして期待されてきた。
頻発する企業年金訴訟
しかし、近年、企業が倒産しなくても、年金財政悪化を理由に、企業年金改革と称する給付の減額が多発しているため、企業年金訴訟が頻発している。この年金財政の計算は、アクチュアリーまたはその中から厚生労働相が指定する「年金数理人」によって行われる。
事業主が厚生労働相に提出する確定給付企業年金に関する書類には、年金数理人の署名押印が必要とされ、その他の適格年金制度などの財政計算は、金融庁が監督する日本アクチュアリー会の正会員の確認が必要である。
しかし、年金数理人(アクチュアリー)の殆どは、独立性を持たず、事業主から収入を得ている受託金融機関の従業員である。
この年金数理人制度は、年金受託のため、事業主の代理人として事業主(委託者)と癒着しやすい構造となっており、事業主のための年金数理不正によって受給権を害する可能性のある制度的な欠陥がある。年金数理人による不正は、被害者(加入者・受給者)の人数が多く金額が巨額で、高齢者である受給者にまで被害を与える深刻なものであるが、それをチェックする専門家も制度も存在しない。
被害者が多く金額は巨額
実際に、住友信託銀行の年金数理人が、早稲田大学の2002年年金改革の際に、事業主(大学)の年金債務を減らすために、総額327億円にも達する不正な計算で積立不足を不当に多く見積もり、それを基準に給付の削減率(35%)を多く見積もっていた(「早稲田大学の年金を知る会」のホームページ)。
同会は、日本アクチュアリー会と日本年金数理人会に対して、懲戒(除名)申し立てを行っているが、両団体は、説得力のある理由を提示せず、懲戒請求を不受理と処理するなどしている。
また、早稲田大学年金裁判第13回法廷(2006年9月8日)における被告早稲田大学側証人は、その改革案の試算書は、早稲田大学が住友信託銀行の名義とソフトを借りて、住友銀行の了承を得て、早稲田大学の職員が作成して住友信託銀行作成の表紙をつけたものであると証言した。これは、銀行法第9条が禁止している「名義貸し」を住友信託銀行がしていたことにもなる。
早稲田大学の年金数理不正の事例は、年金数理が難解なもので情報開示も不十分であるため、大学教員によって明らかにされた氷山の一角と見られ、専門性が必ずしも公平性を担保するものではないことを証明している。
企業年金の受給権保護と企業年金に対する不信の除去のために、金融庁による監督の徹底と共に、企業年金に対する十分な情報開示と年金数理人(アクチュアリー)制度に対する抜本的な改革が急がれる。
(早稲田大学商学部教授・李洪茂)
企業年金 企業などに勤めていた個人に対し、退職後に支払われる年金。退職金公的年金とは別で、基本的には企業が保険料を支払う。厚生年金基金などがこれに該当する。企業の業績悪化などに伴い、元本割れのリスクも生じる。積み立て残高不足は企業のマイナス材料として挙げられることもある。
|